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口を与えよ

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おなかの調子もようやく落ち着き、ただのお粥一杯から「三分粥」という流動食付きのメシにグレーアップしました。いちど飢餓したニンゲンにとっては流動食すらもただひらすらおいしく、身も汁も見分けのつかないドロドロした物体をスプーンいっぱいずつほおばり、うま味を確認しています。

毎回出てくるものはほとんどいっしょ。ちょうどイワシをミキサーにかかてダシで味付けしたごときものと、葉物野菜を砕いた緑色の汁、あと具のない味噌汁、そして全粥です。三分粥のメニューをさらに全粥にアレンジしてもらっているというわけです。

三度三度の飯がこれだけ待ち遠しく、待ちきれないというのも体がやはりそれを欲求しているわけで、さすがに栄養剤の点滴一日600kcalだけでは体がもたない。毎日の妄想活動にカロリーを多量消費したいニンゲンにとっては大脳にもっとエサが必要なのです。

ただせっかくメシらしくなってきたのに口の激痛はさらに増している。ミネラルウォータをー口に含んだだけで悶絶するというのではメシどころではない。お膳を前にして頭をかかえてしまった。

医師や看護師に入院当初から口の痛みを訴えてきたのであるが、いつも処置なしで終わってしまう。いちど口腔内の一部の粘膜を採取され、検査に外注したようであるが、何週間待っても返事が来ない。

こないだの大腸菌さわぎもそうだった。検便でばい菌が出たのになんにも処置なしで、ゲリが続いてヘロヘロになったところでやっと抗生剤をはじめて。そしたらすぐゲリも止まって。だったらもっと早くやってくれよと思った。そしたら絶食もしなくてよかったかもしれない。

口の痛みもさすがに辛抱たまらなくなって、自分で鏡見ながら口内の患部をよおく観察して、先生に考えをぶつけてみた

口内炎がもしGVであったならば、いまステロイドを大量に入れているのでおさまってよいはずだ。それがますます痛みが増しているというのは、他の因子を考えた方がよいのであって、思い当たるのはカンジタというカビの一種だ。これは誰でも口中にもっているいわゆる常在菌である。ふだんは何も悪さはしない日和見菌であるが、免疫抑制している人もしくは、抗菌剤を長く使った人は口内の菌のバランスが崩れ、このカンジタが一気に増殖することがある。

口のあちこちに白いヨーグルトのようなプルプルしたびらんのようなものができ、ぬぐうと容易にはがれ落ちる。そして血がにじむ。これはカンジタの典型的な症状ではないだろうか。さらに、いま咳や痰が止まらないのは、このカビが気管のほうに降りていってるのではないだろうか。

と話したら先生はあっさりと「じゃあ軟膏だしときますんで」と二つ返事で東京へ行ってしまった。そして夕方、看護師さんが持ってきたのは「フロリードゲル経口用」というチューブ状の薬であった。
 

  1. お薬を含んだら、舌でまんべんなく口の中にぬりひろげてください
  2. この状態で、できるだけ長く口の中に含んだあと飲み込んでください


味はなんというか薬用リップクリームをさらにクリーミーにしたような。まずくて頭がおかしくなるというものではないけど、この「飲み込む」というのが吐きそうになってなかなかできない。一回分でチューブ一本分ぜんぶ飲めといわれても、薬そのものが痛い。いったん吐き出してから口中の残りを唾液に混ぜてちょびっとずつノドを通す。

いまはこの薬に望みを託すしかないし、だったら飲むしかない。これで治ればさらにめっけもんだし、治らなかったらカンジタ感染でなかったということでそれもまたよい。

せっかくお腹が復調したのに今度は口の痛みで悶絶することになるとは。これだけ痩せる条件が出そろってしまうと太ろうにも太りようがない。

まずは三分粥。これをバクバクうまく食えるようになる。

われにその口を与えよ  

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