84年、田中は東京の老人専門の上川病院に移った。理事長で精神科医の吉岡充(59)もまた、患者を縛ることに疑問を抱いていた。
看護師長になった田中と話し合い、吉岡は決断する。「自分たちがやっていることを自覚するために『抑制』ではなく『縛る』とはっきりいおう」。そして「一切許さない」と院内に宣言した。
田中は思いきってベルトや浴衣のひも、包帯まで捨てた。「でも、どこからか出てくるんです。捨てる、もちこむ、捨てるのくり返し」。縛ることに慣れた職員の意識を変えなければ。病院に泊まりこみ、みんなで工夫する。
ベッドから落ちそうな人には床にマットを敷こう。車いす転落防止は、そばで見守り、筋力アップのリハビリを。点滴を抜く人には管を本人から見えない足に。おむつを外すのは汚れる前にトイレにつれていこう。
ときに当直医と意見がぶつかっても譲らなかった。もう二度と後ろめたい思いはしたくない。「縛ったら病院は牢獄になる」。そのとりくみはやがて全国の医療関係者に知られるようになる。(続く)
「ニッポン 人・脈・記 みんな、その日まで8 縛らない老いの体と心」
朝日新聞 朝刊 2008.3.18





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