新横浜駅の近くに誕生した「ラーメン博物館」の初日の開館を待つ行列に並んだのは、つぎの理由による。
その博物館が近々オープンすることを伝え、内部の様子を紹介したテレビの画面で、懐かしい文字をを見かけた。
新宿ゴールデン街のバー「まえだ」の看板である。...
...入館するとただちに、「マイト街」なる一角へ行ってみた。
なんと街の入り口に、二十代前半のぼくが最初に通った新宿の酒場「モッサン」がある。
その向かいには、二十代後半から三十代にかけて毎晩のように通った「ユニコン」。
さらに井伏鱒二氏をお見かけし、埴谷雄高氏と初めて話した「カヌー」、吉行淳之介氏に教えられた「ナジャ」、野間宏氏と言葉をかわした「アンダンテ」、そして野坂昭如氏や田中小実昌氏や色川武大氏とよく顔を合わせた「まえだ」......等等。
かつて小説家、詩人、批評家、画家、映画人、編集者、記者たちが夜ごと集まった店が、軒を連ねている。......
館内の基本的な時代設定は、ラーメン文化が庶民に根づき、初めて即席ラーメンが売り出された昭和三十三年であるとか--。
とすれば、日本映画が史上最高の観客動員数を記録した年でもある。
翌年から映画は下降線をたどり、かわりにテレビが栄え、やがて大量生産、大量消費による空前の経済的繁栄の時代はやってきた。
物質的な繁栄と引き換えに、日本映画の全盛時代などの多くのものを失って、結局われわれがたどり着いたところは、やっぱりラーメンだったのである。
長部日出雄『反時代的教養主義のすすめ 』 P230 新潮社





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