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超急性GVHD

「骨髄移植、成功したんですね」といわれると、「うーん、そうですね。ありがとうございます」と、ついワンテンポおいてしまう。

白血球が生着したといっても、血小板はまだだし、赤血球にいたってはあと3〜4ヶ月かかるだろう。

その間、古い血球と新しい血球が混在する(キメラ)というきわめて不安定な状態にさらされる。しかもGVHD(移植片対宿主病)がいつでるかわからず、免疫抑制剤を24時間いれっぱなしの現時点では、まだまだ「成功」というたしかな実感など、わいてくるはずがない。

それというのも、実は生着前に早くもGVHD反応があらわれ、先生を慌てさせてしまったからだ。通常、GVHDは、生着後1ヶ月前後からあらわれると言われているが、小生のばあいはなんと移植後1週間ではやくも出てしまった。よほど勢いのある骨髄細胞をもらったのだろうか。それともHLAの型が1座不一致という条件での移植だったため、如実に拒絶反応を示したのだろうか。専門用語では超急性GVHD(Super Acute GVHD)というそうだ。

具体的な症状としては、蕁麻疹、下痢、発熱が続く。体重が一日で2kg減ったこともあった。

移植細胞はもともと他人の細胞なので、移植された人のカラダは彼らにとってみればすべて「他者」とみなしうるわけである。だから全面攻撃をしかけるというのも免疫の原理からすると当然の結果なのであるが、されるほうはたまったものではない。

しかし、これを乗り越えていかないと明日はないのである。

GVHDへの対策としては、いまのところ免疫抑制剤で免疫反応そのものを押さえこむしかない。実際、ステロイドホルモン剤を入れたら反応はかなり収まった。毎日インシュリンを入れる羽目になったが。

反面、免疫力を押さえ込むということは、当然ながら感染に弱くなるということで、ちょうどエイズ患者のようにウィルスや菌にたいして裸でさらされるような状態が続く。だからGVHDを押さえるために免疫抑制剤を使いすぎると、今度は肺炎とか敗血症とかになってしまい、また命の危険にさらされることになるのだ。

サイトメガロウィルスとか、ヘルペスウィルスというのは、つねに吾々のカラダのなかに潜在しているのだが、ふだんは免疫力が勝っているので暴れ出すことは滅多にない。しかし、免疫抑制剤の使いすぎは、彼らを呪縛から解き放ってしまう危険がある。両極のバランスをとるためには、免疫抑制剤の微妙なさじ加減が要求されることがわかるだろう。

とはいえ、GVHDも悪いことばかりではない。実はGVL効果(Graft Versus Leukemia)といって、白血病細胞も同時に攻撃してくれるのである。これは抗ガン剤などにはマネのできない人体の神秘であって、免疫反応を応用し、悪性の腫瘍をひとつひとつしらみ潰しにやっつけるという骨髄移植自慢の治療効果といえる。

今でも鮮明に記憶しているが、ちょうど苦しんでいたころ、K先生がたずねてきて、「これで再発はない」と言い切ってくださったのである。「今までの経験から、この時期からGVHDが出る人は再発しない。数ヶ月たってから出るような反応の遅い人のほうが危険だ」と。

白血病にとって何がいちばん怖いかといえば、「再発」のひと言につきる。化学療法を何度やろうが、死ぬ思いで骨髄移植を乗り越えたとしても、再発してしまえばすべてが無駄骨に終わるからだ。

実際、2回目、3回目の移植を受けた人の話、治療を断念して死を待つ人の話などを患者仲間からきいていると、その精神の葛藤は同病者にとっても想像不可能なほど暗闇である。いや、考えることそのものを避けてしまう。「自分は彼らのようにはならない」と祈るような気持ちで自分のベッドに横になるとき、ハッキリと恐怖を感じるのだ。

それが「再発なし」と言い切ってくれる人が目の前に立っているのはなんとありがたいことであろうか。私は何度もこの日のことを思い出しては泣いた。

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